■相続対策としての賃貸事業

[よくある錯覚・・・]

「相続税評価減対策として賃貸マンションを建築し相続税は抑えることができたが、いざとなったら相続人が納税できなかった、相続人の返済見込みが立たなくなった」など。更地に賃貸マンションを建てて賃貸事業を行えば確かに相続税評価額は下がる。しかし、借入金があるから評価額が下がったという錯覚・・・。賃貸物件を建てたことによる土地の評価減、建物自体及び借家権がついたことによる評価減などの結果による評価額の減少であり、借入をおこしたことによるものでない。端的には、建築資金を手持ちの現金でまかなっても、借入でまかなっても、相続税に与える効果は同じである。

 

また、相続人らが「事業を行う」こととなり、「借入金返済というリスク」を負った側面をあまりに軽視しがちである。

賃貸マンションなどを借入金で建築した場合、債務による相続税の節税効果は相続人全員に及びますが、借入金の返済義務を特定の相続人が負うとなった場合は注意する必要があります。賃貸経営が予定通り順調に推移すれば良いですが必ずしも思惑通りに行くとは限らないので、特定の相続人にとっては借入金で賃貸マンションを建築しなかった方が良かったという結果もあり得ます。

節税重視型の対策提案の場合、将来の不確実なことについて一定の前提条件のもと対策を組み立てており、対策の効果は予測の範ちゅうを出ないものであり、かつ対策には常にコストとリスクが伴うことを理解しておくことが肝要です。また変動金利による借入を行っている不動産オーナーの場合は、現在の日本の債務状況を勘案すると、万一金利が急騰した場合のリスクヘッジについて検討しておくことが必要です。

[賃貸事業と建物の減価償却・・・]

事業計画における損益・収支計画表は客観的な分析にやはり必要不可欠なツールです。損益は当然のこととして税引後の収支計画が特に重要なのですが、その理由は後述することとします。

さて、長期の損益収支分析を行うためには、借入者の状況・変遷を考慮したストーリーをいくつか設定し、それぞれに税率をあてはめてシミュレーションを行い、どのストーリーになった場合は返済できないのかを検討しておく必要があります。所得税は累進課税ですので、複数物件による賃収が多い場合は高税率となって税金として流出します。また相続人に移転するという筋書きの場合も、税率は相続人の収入の多寡に応じて変動します。返済期間が長期の場合、これら借入者の属性と税率の筋書きをいくつか想定し、ストーリーによってはリスクが高いと思える場合は、借入を行うべきではありません。長期多額な借入れは潜在的リスクが高いからです。

 

平成10年の減価償却の大改正により、いわゆる建物主体(躯体部分)の減価償却方法において定率法が選択できないこととなり、これにより毎年の所得が増えて税金として流出し、元金返済の原資となるべき毎年の手元現金残高が大きく減ってしまうこととなったことは、皆さん周知のことと思います。つまり賃貸事業の旨みが無くなった訳です。昭和50年代に貸アパートを始められた大家さんは定率法と高度成長による恩恵で借入債務を早い時期に難なく返済していました。大家業をリスクなく行うことができる時代でした。その成功体験から、また賃貸事業を始められてしまう方も見えます。

不動産会社やファンド等が不動産投資として行う居住用賃貸マンション事業は、原則として土地建物全体の投資額を回収可能な収益性の高い商業地等におけるものであり、住宅地等に保有する土地に賃貸マンションを建てていた不動産会社等はよほど収益性が高くない限り、これを行わなくなりました。

更に平成18年の減損会計導入により、会計基準の適用を受ける不動産会社等は、賃貸マンション事業等のために土地に資金を寝かせることのハードルが高くなりました。

不動産会社等が賃貸マンション事業を行わなくなった大きな要因は他にもあり、原状回復ガイドライン等によって賃貸マンション事業の収益性がより悪化したという状況変化も大きかったと言えます。現在、住宅地において個人から土地を賃借し、建物譲渡特約付借地権の設定等により、建物のみに投資することによって資金の回転率と収益性を高めて取り組むという方式も見られます。(*ハウスメーカーからの契約期間30年の建物譲渡特約付借地権の利用による借地契約の申し込みなど

不動産会社やファンド等が不動産投資として行う居住用賃貸マンション事業は、土地建物全体への投資額の回収が前提であるのに対し、個人の相続対策として行う居住用賃貸マンション事業は建物投資額の回収が前提であり、その収益性は比較すべくもありません。不良資産化していざ土地建物売却するとなった場合にこの差が歴然とします。売却市場では粗利回りが一つの指標として取引されますが、これは年間総収入を売却希望価格(土地及び建物の合計価格)で除して求めます。

収益性が低い居住用賃貸マンション建築を選択しているのに、将来売却して大きな損失を発生させ、資産を目減りさせるようなことがあっては本末転倒です。ローリターンならば、ローリスクでなければなりません。賃貸マンション事業はローリスクではありません。相続対策として賃貸マンションを建てるのであれば、何の対策なのか、リスクに対処できるのかがしっかりと検証されていなければなりません。

 

[借入金の返済見込み・・・]

さて、複数の物件による不動産所得がある方の場合、借入金を伴う賃貸物件は、毎年個々の物件毎にその収益性や返済見込みを判定する必要があると思いますが、皆さん、これらを行っていますでしょうか?

多額の借入金を伴う収益物件はこれを相続する者が不安を感ずるものであり、相続が起きて遺産分割でもめたり、又は相続した者にずっと負担がかかるということになります。従って、多額の借入債務を伴う収益物件についてはその収益性と返済見込みについて、面倒でも節目ごとに自分自身で判定し、返済見込みに黄信号が灯った時には、対応策を検討する必要があります。貸アパートや賃貸マンションは建物が新しい当初10年間はどのオーナーも確定申告を済ませたのち個々の物件毎の返済見込みを特段気にすることなく過ごし、12~15年程度経過した頃、借入残高に不安を感じる方が多いようです。冒頭に述べました税引後の収支計画こそ、返済見込みを確認検証するツールなのです。

 

 ここで、複数の賃貸物件を所有される土地オーナーの中で、平成11年頃に新築した軽量鉄骨造のアパート(建物主体部分の法定耐用年数27年タイプ)をお持ちの方にお尋ね致します。本物件の返済期間の設定は27年~30年であろうかと思いますが、現在の借入残高は、残りの返済期間(約15年程度か)で、本物件のみの収入見込みにて返済できる見通しでしょうか?

 次に、上記アパートが骨格材が4mm超の軽量鉄骨造、又は重量鉄骨造であった場合、建物主体部分の法定耐用年数は34年となり、返済期間の設定は35年~40年と思いますが、果たしてこの場合、返済の見通しは、いかがでしょう?残返済期間は20年以上あると思いますが・・・。

 これがアパートでなく鉄筋コンクリート造(RC造)であった場合、建物主体部分の法定耐用年数は47年ですが、返済の見通しは、いかがでしょう?残りの返済期間を考えるだけで、何だか気が遠くなりそうです。 

 

こう考えてきますと、建築費が安くて、法定耐用年数の短いアパートがないかと、皆さん考えますよね?そう、あれです。法定耐用年数22年の木造3階建てのアパートです。ではこれなら問題は少ないのでしょうか?確かに損益収支上は取得費が低くて償却期間が短いことは有利ですが、他に問題はないのでしょうか?賃貸事業についての談義は、尽きることがありません。

※名鉄豊田線「梅坪」駅徒歩3分


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