■土地オーナーと遺言書(公正証書遺言)

1)被相続人が遺言書を残したいと思う場合としては、

○相続人の意見がまとまらないことが予想される

○自分の財産の行方はすべて自分で決めたい

○子供と両親がいないので妻に全部相続させたい

○寄付をしたいところがある

○相続人ではない孫や世話してくれた長男の嫁に財産を贈りたい

○内縁の妻や認知をしたい子がいる

○その他

 

 相続時に争い事が起こり易い場合を参考までに例示しますと、

*遺産が不動産しかない

*相続人同士の経済状態に大きな開きがある

*家族内のコミュニケーションが不足している

*子供がいない

*異母(異父)兄弟がいる

*隠し子がいる

*相続人ではない第三者が口を出してくる

*遺言書がない

*離婚経験がある

*承継すべき稼業・事業がある

 

(2)遺言書があることによるメリットとしては・・・

遺言書があることによるメリットとしてあげられるものは、金額の大きい定期預金・株式・不動産などについて、相続人が指定されている公正証書遺言を金融機関や法務局に呈示することにより、遺産分割協議書がなくとも名義変更や相続登記などが可能ということでしょうか。むろん相続人間で揉めない遺言内容であることが前提ですが。また遺言書がなく相続人間における遺産分割協議の話がずっとまとまらない場合、最終的に相続税の特例が使えず相続税が増える場合があり、遺言書がないことによるデメリットと言えないこともないですね。

(3)相続人に心の傷を残さないか

 遺言の内容が遺留分の問題等をクリアしていたとしても、特定の相続人に心の傷を残す場合があります。相続の内容に納得できない相続人が不満を持つ場合などです。

 例えば兄弟姉妹間の相続分に差をつける場合は、被相続人が生前にきちんと説明をなされていれば良いですが、それがなされていない場合は問題を残します。

(4)遺言書を残すと複雑になる・・・

 遺言書を残したいと思われる方の目的は、遺産を承継させたい者に確実に承継させることだと思いますが、以下が考慮されていることが前提となります。

 ①遺産の漏れがないこと(書き忘れ、認識不足など)

 ②遺産の公平な分割

 ③相続税及び納税の検討

 遺産が多い方の場合、これらを考慮するには非常に手間と時間を要します。

遺産の公平な分割の前提として、過去の贈与や援助、名義預金なども含めた被相続人の遺産を正確に洗い出さねばなりませんが、この作業はそもそも相続税の申告を行うために必要な遺産の把握と同等レベルの作業が必要となります。

これらが考慮されておらず相続人に不満が出た場合、相続人間で遺言書と異なる遺産の分割を協議せねばならず、残したいと思った形で相続人に遺産を残せないこととなり、相続人にとっては余計に複雑になるだけということになります。経験上、全ての条件を満足する遺言書を作成するのは非常に困難であり、また遺言したい内容も変化することが多いと思っています。資産が多い方の場合、完璧な遺言書を作成するのは非常に難しいでしょう。もちろん個々の事情に応じて遺言書が必要なケースはあるかと思います。

(5)公正証書遺言

公証人に遺言書の作成を依頼される方は、公平な遺産分割と相続税等については依頼者側の責任において検討しておかねばなりません。これらは時間を掛けてじっくり検討しておくべき性質のものであって、これらを検討せず性急な遺言を行っても、相続人に無用の迷惑・混乱になることが多いものです。

(6)複数の土地を所有する土地オーナーの場合

 複数の土地を所有する土地オーナー及びその家族は日頃から相続税を意識している場合が多く、申告納税まで時間がない中で揉めることは比較的少ないものと実感しています。

 親はいくつになっても財産についてなかなか子供に話せないものです。昔と違い、現在は兄弟姉妹間は平等相続であるため、兄弟姉妹間の分割を考慮する場合は遺言書はつくらず、相続発生後、相続人全員がお互い譲り合い決めれる状況としておいてあげるのがよいと思います。公正証書遺言を残さずとも、家族が揉めないように元気なうちに配慮してあげることは可能なはずです。

(7)土地オーナーが行っておくべきこと

 土地オーナーが元気なうちにぜひ行っておいて欲しいこととしては、まずは現在の資産をはっきりさせておいてあげることです。

 公正証書遺言などは必要ないにしても、下記についてまとめておいてあげることにより、万一の場合に家族を大変助けることとなります。必要資金の工面、資産の一覧をまとめ、資産の分割についての思いのメモを残しておいてあげることは、家族への思いやりです。

  資産の一覧(定期預金等の預金通帳とキャッシュカード類及び番号、株式、国債、生命保険等及び不動産)

  所得税や譲渡所得の確定申告書・青色申告書等の控えや写し

  貸金庫の有無と内容物一覧(遺言書やメモ等は入れないでください。奥様が代理人となっていても、本人死亡の場合は、貸金庫を開けれません。)

  年金証書、年金手帳

  年金受領、家賃・月極駐車料、管理会社等から振り込まれる通帳

  万一に備え、奥様や家族名義とした通帳と印鑑・キャッシュカードと番号等

家族名義とした通帳は、葬儀や債務、当面の支払いに備えて必要と思われる十分な残高を用意しておいてあげると家族が助かります。万一の場合に本人の口座が凍結されても、別名義の預金は名義人は引き出すことができます。(※名義預金の応用)生命保険金も受取人が指定されているものは比較的短期間で受け取ることができます。厄介なのは、アパートや月極駐車場などの集金業務を管理会社に委託せずオーナーご自身で口座振替え引き落とし等により集金されている場合です。家族名義への変更や廃止を申し出る時点で本人確認が必要となり、口座凍結となってしまいます。

 

 親子間で遺産分割や相続税などに関する相談が必要となった時には既に親側の判断が難しい、あるいは話し合いができないというような局面が多くなっています。

将来債務の弁済や相続税の支払いを無理なく行うことができ、必要な者への配分も考慮し、全体的に公平観を持った遺産の分割、そんな遺産分割でありたいものです。

 

※名鉄豊田線「梅坪」駅徒歩3分


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