*相続税申告までに時間がない理由

相続税の申告納税には時間がないとよく言われますが、通常四十九日法要が終わり一息つくと、あっという間に3ケ月経過します。相続税額と納税方法の見通しをつけつつ相続人間で遺産分割を行わねばならず、税理士に依頼しても働いている者が休みに頭を突き合わせて打合せを行うことは困難であり、遺産分割の協議をまとめることは大変な時間を労力を要します。亡くなった日から10ケ月以内に申告納税を済ませねばなりませんが、納税資金の工面ができない場合は窮することとなり、期限が迫ります。しかし相続税申告までに時間がないとよく言われる理由はこれだけでなく、以下の理由による場合も多いと思います。

 

[1.相続税が掛からないと思っていた・・・]

税務署は相続税の申告が確実に必要と判断した場合には、相続税の申告書を、相続税がかかる可能性が見込まれる場合には「相続税についてのお尋ね」を相続人代表者と思われる方に対して相続税の申告期限の数ケ月前くらいに送付して来ます。この時期は事情により前後することもあります。

「相続についてのお尋ね」や「相続税の申告書」は、相続税がかかる方全員に送付されるわけではありません。あくまでも、税務署側で把握しているデータを基に、相続税がかかりそうな方に税務行政のサービスとして送付されているにすぎません。

平成27年は相続税改正により基礎控除が引き下げられたことから、お尋ね等がどの範囲まで送付されてくるのか、現時点では明確ではありません。平成27年の申告状況等を勘案のうえ、平成28年~29年末頃には一定の範囲を定め送付して来るものと思われます。

相続税は、相続人自身が税額を計算し、税金を納める「申告納税」という方式をとっています。そのため、相続税がかかるかどうかは相続人自身が判断しなければなりませんので注意が必要です。相続税が掛かる場合には、申告期限までに申告と納税を済ませねばなりません。遅れた場合にはペナルティーが課せられます。

このように、相続税なんてうちには関係ないと思っていた家庭にこのお尋ねが送付されてきた場合は、相当あわてることになります。

 

[2.相続税の申告書を誰が作成するか・・・]

相続人の数が10人以上で多いとか、遺産が多い場合を除き、相続税の申告書を相続人自身で作成のうえ申告と納税を行う方はまだ多いと思います。当初から税理士へ依頼するなら別ですが、自身で相続税の申告を行う場合は所得税とは異なり、

・財産の種類が多い場合は相続税評価額を求めるには専門的な知識が必要

・相続税の申告書類への記入は非常に難解となっている

・申告に必要な添付書類等の作成・取り寄せに非常に手間と時間がかかる

・相続税評価額の軽減や税額軽減措置の検討は相続人の相続分によって変化し、公平な財産の分割と納税負担を考慮した上で遺産分割協議と納税をまとめるのは非常に困難 

・相続人の誰かが中心となって申告を行う場合、勤労している者であれば、相当の負担が掛かります。

・自分自身が詳しいかまたは近しい者に詳しい者がいて手伝って貰えるような場合、

・財産の種類が少ない場合、

・相続人が一人である場合、等で簡単なケースを除き、自らで申告納税を行うことは、時間的制約があるなかでは相当なリスクを伴うということに留意する必要があります。手に負えなくなってから税理士に依頼しても、やはり時間がない中では納得できる成果を出すことは難しいものです。

現在、相続税申告に対する税理士報酬の安さを競う広告が盛んですが、2次相続まで考慮した遺産の分割と、相続税の税務調査等への対策を踏まえた上での相続税申告の手間を考慮すれば、遺産の1%前後の税理士報酬は支払う価値があるというのが実感です。相続人のために時間をしっかり取り、遺産分割の相談にじっくり応じてくれる税理士であれば十分満足がいくものと思います。

報酬がいくら安くても肝心なことの相談に応じてない相続税申告であれば、なんのための報酬かわかりません。税理士報酬は、相続人の立場に立ってしっかり相談に応じる税理士だからこそ支払うべきものであり、相続人のために十分な協議時間を取らず事務的・機械的に申告業務を中心に行う税理士に支払うべきものではないと思います。税理士報酬の多寡は、税理士を選ぶ基準ではありません。ぜひ家族の将来のために相談にのって貰うことの重要性を認識し、信頼に足る税理士に出会って欲しいものです。

 

[3.相続税の税務調査対策の必要性]

・近年の相続税の税務調査は想像を超えた周到さで資産のチェックを行い、乗り込んで来ます。金融資産が多い方の場合は被相続人及び相続人・孫の全ての通帳について、5年~10年分の履歴を金融機関より取り寄せ、過去の大きなお金の流れを全てチェックし、どの時点でどこに流れたのか、漏れてる現金はどこにあるのか、配偶者又は子供や孫といったいわゆる名義預金や贈与の有無も徹底的に調査分析します。相続人が把握できなかった金融資産が呈示される場合もあります。

・相続税の税務調査は、遺産が3億以上の方は高い確率で申告の後(翌年もしくは翌々年)に調査が入り、追徴される状況となっています。追徴により相続人間で取り返しのつかないひびが入ることがないよう、慎重の上にも慎重に申告納税をすべきです。税務調査対策は相続税申告までにしか事実上、行えません。相続税申告までには時間がないと言われる本当の理由はここにあります。税務調査対策を行わずに後日税務調査を受けた場合、対応策はないと言っていいでしょう。

・従って、可能であれば生前に相続税に詳しい専門家を訪ね、自己の相続税についての見通しなどについて、一応の意見を伺っておくのがよりベターということになります。

 

[4.生前に最低限行っておくべきこと]

・上記のように相続税申告納税までの時間は本当に短いですから、特に多額の相続税が掛かると見込まれる土地オーナーなどの場合は、ご自身に万一のことが起きた場合に備え、最低限、現在の保有資産・債務のまとめをしておかれるべきです。資産について奥様にこと細かには伝えないことが多いと思いますので、これを整理してまとめ、メモなどで結構ですので残して置かれることこそ、万一のことがあった場合に残されたご家族を助けることとなります。

・相続人はまず資産の押さえに四苦八苦し、相続税支払いまでの時間との闘いに疲弊する訳ですから、現有資産・債務の把握がきちんとなされているだけで、ご家族の混乱をなくし、遺産分割について十分協議する時間を確保してあげることになります。